国民同胞巻頭言

第599号

執筆者 題名
合宿運営委員長
飯島 隆史
「江田島で、歴史に学ぼう」が現実になった
- 第56回全国学生青年合宿教室開催さる -
  合宿教室のあらまし
走り書きの感想文から(抄)
合宿詠草抄

 第56回全国学生青年合宿教室は海軍兵学校ゆかりの地、広島県江田島市の「国立江田島青少年交流の家」において、8月19日から22日までの3泊4日の日程で開催された。平成14年の夏以来、2度目の江田島開催であった。

 今夏の招聘講師である東京大学名誉教授の小堀桂一郎先生(本会顧問)は10回目のご登壇であった。3月に東日本大震災があり、さらに福島第一原発の事故が追ひ打ちを掛けてゐることもあって、合宿そのものの開催が危ぶまれたが、「江田島で、歴史に学ぼう!」との呼び掛けに応へて、北は北海道、南は九州各県の全国各地から141名の人達が参加したことは有難いことであった。

 前理事長・故小田村寅二郎先生が示された「学問、人生、祖国」の一体的な理解把握がことしの合宿教室でも基調テーマであった。廣木寧先生の合宿導入講義「ソクラテスと吉田松陰 - 魂の世話をするといふこと- 」では、時代も国も懸け離れた二人の間に《偉大なる魂》の交流があるとし《正しく学問する》《正しく生きる》とはどういふことなのかが説かれた。小堀桂一郎先生の御講義「歴史に学ぶ『公』と『私』の関係」では、既に神々の世界で農耕共同体的な助け合ひの精神が尊ばれてをり聖徳太子17条憲法に《公と私》の社会秩序の原理が示されてゐることが指摘された。國武忠彦先生の古典講義「古事記 仁徳天皇の巻 」では、皇后石の比売の命の愛憎半ばする悲しいまでの切ない心情とその人間的真実を伝へる『古事記』の魅力が語られた。山内健生先生の講義「日本歴史の特性」では、御歴代の天皇に一貫する《民安かれの祈り》こそ《連綿性》といふ日本歴史の特質の最たるものであり直視すべきものであることが説かれた。

 また寶邊矢太郎先生は短歌創作導入講義の中で自分の気持ちを正直に正確に詠むところに短歌の原点があると話された。その後、総数4百数10首の歌が提出された。参加者全員が短歌を詠んだことは大いに意味のあることであった。 折田豊生先生の創作短歌全体批評においては実際の作品を例に正確に詠むとはどういふことなのかが示され、《大和言葉》による豊かな表現に改めて瞠目させられた。今後の日常の中でも、短歌の創作や名歌の鑑賞を続けて行きたいと思ふ。

 私どもが日頃から、かくあるべきと考へてきた「真の学問」とは自らの人生観を問ふものであり、わが人生の真の幸福とは何かを自問するものであった。学校で学ぶものの多くは知識であり、わが心を揺さぶるものが「真の学問」である。日本の学問とはそのやうなものであったはずだ。かつて徂徠も宣長も松陰も、さういふ学問をした。この合宿教室で、もし心に響くものを感じられたとしたら、「真の学問」の端緒を掴まれたといふことである。

 そしてこの学問を深めるものは時に苦言を呈してくれる「真の友」の存在である。「友情」はその中から生れる。切磋琢磨する「良き友」を見つけられたと思ふが、本当の付き合ひはこれから始まる。

 同時に、われわれの境涯を包み込んでゐる「祖国日本」の命運も、わが学問、わが人生と不可分に結びついてゐる。この日本に生れたことは選択の次元を超えてゐる。その宿命に正しく向き合ふ学問がわれわれの人生を充実したものにしてくれる。合宿教室で日本の精神的伝統の大切さが説かれ、先人に感謝する慰霊祭が営まれた所以もそこにあった。

 最終日の全体感想発表を聞いて、私どもの願ふところを感じとっていただけたことが伝はってきて有難かった。ここで学んだことを大学や職場で、日常の生活の中で、どう生かすかはわれわれ一人一人に懸ってゐる。わが国の困難な状況は続くかもしれないが、感想発表を耳にして、日本は大丈夫だと確信した次第である。

(新明電材(株))

ページトップ  

開会式(第1日目)

 第56回全国学生青年合宿教室は九州工業大学大学院1年小林達郎君の力強い開会宣言で幕を開けた。主催者を代表して上村和男理事長は「豊かになった今日、見失ったものは何か。それは積極的に物事に挑戦する意欲であり、自分の頭でものを考へる力であり、さらには日本の文化伝統への愛情である、今のわが国に最も欠けてゐるものは国家観である」と問題提起をしつつ、「これらについて考へ、気付き、目覚め、そして各自が奮起するやうな合宿にして欲しい」と挨拶した。次いで九州工業大学情報工学部4年大森淳史君は「この合宿では心に残る言葉を見つけたい。互ひに心に残った言葉を語り合ひたい。皆さんも是非、それを班員に伝へて下さい。充実した合宿になるやうに心を尽して取組みませう」と呼び掛けた。

合宿導入講義

 「ソクラテスと吉田松陰   - 魂の世話をするといふこと- 」
          (株)寺子屋モデル講師頭 廣木寧先生

 初めに、陽明学者安岡正篤氏の「何か心霊に響く感動の気を得て、それからそれへと縁に随って、自ら学問求道しなければ、真に自己を開発することは難しい」「縁を尋ねて古聖先賢の学道に参じたことに深甚な恩恵を覚える」との文章を引用され、「この合宿では先人の遺した文章を味読し、その生き方に学ぶ生き方を学んで欲しい」と述べられた。

 ギリシャの哲学者ソクラテスと幕末の尊王論者で思想家の吉田松陰について、プラトンの著書や松陰自身の言葉で詳しく紹介された。『プロタゴラス』では、若いヒッポクラテスが「魂」までも簡単に他人に委ねかねない一説に触れられ、「同じことが現代の我々にも言へるのではないだらうか」と問はれ、「自らの魂の世話をするといふことは正しく生き正しく学問をするといふことである」と説かれた。また『パイドン』の文章を詳説され、ソクラテスの「死生観」には松陰のそれと相通じるものがあると指摘され、松蔭の『留魂録』にある辞世「身はたとひ武蔵の野辺に朽ちぬとも留め置かまし大和魂」の歌や言葉を味ひ、さらに二人の「学問と人生観」は江戸後期の儒学者大塩平八郎の「身の死するを恐れず、ただ心の死するを恐るるなり」との生き方をも想起させるものがあると述べられた。

短歌創作導入講義

          山口県立熊毛南高等学校教諭 寶邊矢太郎先生

 冒頭で、「短歌を上手く作らうなどと余計なことを考へてはいけない、感動したことを素直に正確に57577の31文字に詠むことが大切である」と述べ、実例として29年前の第27回合宿教室で学生が詠んだ歌を紹介された。その折の短歌導入講義で山田輝彦先生(福岡教育大学教授)が取り上げられた「日本海々戦」直前の電文にまつはる連作短歌四首は、「30年ほど前に一度耳にしただけなのに、一首目《まちにまちし敵艦見ゆとの警報はつひにきたりぬタタタ、タタタタと》の結句“タタタ、タタタタと”の八字八音の響きは今でも忘れることができない。字余りも気にならない。講義をお聴きした際の作者の感動が素直に詠まれてゐるから、作者の心持ちが波打つやうに私に伝はってきたのだ」と語られ、短歌創作の要諦が「自分の気持を正直に正確に一首一文で表現する」ことにあると話された。「お話したことに従ってお作りになれば必ず自分の短歌ができる」と強調された。

講義(第2日目)

 「歴史に学ぶ『公』」と『私』の関係」
          東京大学名誉教授 小堀桂一郎先生

 先生は、初めに、3月の東日本大震災の折に、海外メディアを驚愕させた日本人の協心協和の絆に触れられ、「戦後占領下での教育基本法の制定以来、人間をバラバラの個人とみなす反国家的教育が長く続けられてきたが、東北地方の人々の間に伝統的な公と私の正しい関係が今も生きてゐることが実際に示された」と語られた。

 そして、わが国における「公と私」の社会秩序の成立について、天の岩戸神話におけるスサノヲノミコトを巡る展開から、「農業生産に直結する共同体秩序の破壊を古代人が重い罪と考へてゐたことが読み取れる」とされ、「共に働き助け合ふことで成り立つ村落共同体は支那では成立しなかった。そこにあるのは専制君主とその支配下にある土地と人民であって、村落共同体ではない。米国も似てゐる」、「四季が規則正しく循環する日本の風土においては、共同での農作業が収穫を増やすためにも重要であり、そこに各人の運命の共有性が認識された。かうした共通性を古代の人はおほやけ(公)と呼んだ」と説かれ、さらに「おほやけ」の語の用例を『日本書紀』の記述に辿られた。

 先生は、聖徳太子の17条憲法は「おほやけ(公)」と「おほみたから(民)」のあるべき姿を高い次元で示されたものであり、「人間の内部にある私利私欲の罪深さに対する洞察が太子の思想の中核をなしてゐた」、「第10条の《人皆心有り、心各執ること有り》の一節は古今東西の古典を通じて最高で、簡潔明快な人間認識の表現である」と語られた。さらに幾つかの条文を取り上げられ、「和」の下に生れる理、嫉妬の不毛性、天地の関係に譬へた自然的秩序観などに解説を加へられた。そして「日本の民が力を合はせて生業に勤しんで生きてゆく、その結束の大本が公であり、民は私有民ではなく、公の民(おほみたから)であった」と説かれ、「この民の保護者であった公(朝廷)の力が衰へて交代した武家政治も、公の代行者としての役割を奉じて民の保護者の役を担ふものであった」と国史を回顧された。

 講義後の質疑応答の中で、先生は明治以降の自由民権思想の流入が公私の緊張関係を生み、公に尽くす伝統と相俟ってむしろ日本の国を強い国にしたと指摘された。

野外研修(短歌創作)

 短歌創作を兼ねた野外研修は江田島の地に相応しい「カッター」演習と「教育参考館」見学の二手に分れて行はれた。

「カッター」演習は各艇に定員(23名程)があり体力的年齢的な制約もあったが希望者全員の参加で実施された。指導員は地元の自衛隊OBで、「駆け足で集合しろ、私語をするな」との厳しい口調に参加者の表情が一変するほどだった。艇庫内で約40分の規律訓練の後、カッターの仕組みを学び海に出た。参加者は重さ約7キロのオール(中高生用)を握り「ソーレ」「ソーレ」と声を掛け合ひながら漕いだ。掛け声が一つになり、オールが揃ったとき、カッターはグイグイと進んだ。海上での演習は約一時間だったが、他者と呼吸を揃へることの意味合ひを体感した研修となった。

「教育参考館」見学では、幕末期以降の海軍関係者の墨跡や特攻隊員の遺書などの展示品を拝観するとともに、海軍兵学校の佇まひを偲びながら二時間余を費やした。現在は海上自衛隊幹部候補学校・第一術科学校となってをり、白い制服に身を包んだ隊員の一団が行進してゐた。近代日本を支へた海の防人達の苦闘を心静かに偲ぶ時間であった(なほ、「教育参考館」見学を希望する「カッター」演習参加者向けに、閉会式後、教育参考館行きのバスが手配された)。

古典講義

 「古事記 - 仁徳天皇の巻- 」
          昭和音楽大学名誉教授 國武忠彦先生

 初めに「仁徳天皇については大きな前方後円墳の御陵で有名だが、どのやうな天皇なのかは誰も知らない。教科書にも載ってゐない。そこで『古事記』を繙いて、どのやうに記されてゐるか。一緒に読んでいきたい」と述べ、「今日のやうな形で『古事記』を読むことができるのは江戸後期の国学者・本居宣長が長年の研究の結果、『古事記伝』を著したことによる。宣長はs真心tを失はなければ神の意志にかなった生活ができると信じたのだ」と語られた。

 次に『古事記』の記述を辿りつつ、「仁徳天皇は農業生産を安定させ発展させて百姓を豊かにするために治水や干拓事業、運河や港の工事などに取組まれたが、その根底には稔りの豊かさを予祝する《国見》といふ重要なお務めがあった。国民のことを一番良くお知り(日知)になられてゐたからこそ、「聖帝」と呼ばれた」と指摘された。

 続いて仁徳天皇の皇后「石の比売の命」の心情を宣長の註釈を引用しつつ説明された。特に皇后が新嘗祭の準備で遠出の間に、「八田の若郎女」に靡いた天皇に激しい恨みと怒りの情を抱き、失望して故郷に向け船で山代河をのぼるうちに天皇への深い思慕を覚え、つひには再び都へと戻る決意をされる、その皇后の心の動きを2首の歌から偲ばれた。「オペラに作詞作曲して上演したくなるほどの心の真実が、ここには描かれてゐる」と『古事記』の魅力を語られた。最後に「宣長の『古事記』に対する愛情はたいへん深く、石の比売の命を語るにしても、その註釈は皇后様の心に寄り添ふものであった」と講義を結ばれた。

講義(第三日目)

 「日本歴史の特性」
          拓殖大学日本文化研究所客員教授 山内健生先生

 冒頭、わが国が現在抱へる問題点のいくつかを列挙され、その中で「世界広しと言へども、自国の領土領海を守るための法整備を求めて国民が署名運動をしなければならない国が他にあるであらうか」と、尖閣諸島防衛に政府が及び腰の現状に目を向けて欲しいと説かれた。そして「被占領期に押し付けられた武装解除憲法を《平和憲法》と呼んで、日本は《悪しき国家》から《平和国家》に生れ変ったとする国の連続性を否定する観念が行き渡ったため、日本歴史の最も大きな特色である《古代的なものが生き続ける歴史的国家》といふ大事な側面が無視されてゐる」とされ、「自国イメージを《平和的民主的国家》から《歴史的な伝統国家》へと転換しなければならない。そこからしか日本の底力は生まれてこない」と述べられた。

 「日本には現存世界最古の木造建築である法隆寺(7世紀建立からの連続性)がある一方で、伊勢神宮の式年遷宮のやうに20年ごとに全てを造り替へることを繰り返して平成25年に62回目を迎へるといふ連続性がある」、「125代の今上天皇は毎年、神武天皇祭にご奉仕されて初代天皇の御偉業を偲ばれてゐる。そして昭和天皇祭・大正天皇祭・明治天皇祭・孝明天皇祭を毎年営まれてをられる。さらにそれ以前の御歴代は百年ごとに式年祭を、例へば昨年は東山天皇300年祭、反正天皇1600年祭、孝安天皇2300年祭、応神天皇千七百年祭を厳修されてをられる。これがわが国にしかない《万世一系》の真の姿である」と説かれた。そして歴代天皇の御製に触れつつ「この御系譜の一系は《国安かれ民安かれの祈りの一系》でもあることに気付いて欲しい。連綿と続く祈りの延長上に憲法第一条がある」と結ばれた。

学生発表

          福岡大学経済学部4年 岡松侑希君

 学内サークル《寺子屋学習塾》に参加した経験を語った。「最初は難しいとしか感じなかったが、それでも輪読を四年間続けることができたのは、偉人の生き方やその言葉に感じるものがあったからだと思ふ。中江藤樹がある言葉に出会って叫び泣くほどに感動したといふエピソードを知った時、自分もそのやうな言葉に出会ひたいものだと思った」とサークル活動を振り返り。「これからはさらに言葉から感じたものが日々の生活に生かされるやうに努めていきたい」と抱負を語った。

          東京大学理学部3年 高木 悠君

 寮生活を送る中で感じてゐることにふれ、「昨年、学生寮《正大寮》が再開されると聞き、寝食を共にする者同士が本音で語り合ふ生活に惹かれて入寮した。一年近い山中利郎君(埼玉大教養3年)との寮生活で、自分の気持ちを素直に言葉にできてゐない自分に気づかされたり、心から語り合ふことの大切さを学んだりしてゐる。寮は定期的な勉強会の場にもなってゐる」と語った。そして「寮生を募ってゐるので、関東地区の男子学生にはぜひ一考を願ひたい」と入寮を呼び掛けた。

創作短歌全体批評

          国民文化研究会参与 折田豊生先生

 冒頭で、「昨日の夕刻までに提出された短歌は450余首にのぼる。昨夜から今朝まで真剣に緊張しながら全てを読ませてもらった。皆さんの苦心の跡がよく出てゐた」と、『歌稿』(参加者の短歌が各人一首以上印刷され綴じ込まれた冊子)を手に述べられた。この『歌稿』は全員に配布されてをり、正確な表現と言葉遣ひ、一首一文などに留意しながら批評された。ちょっとした添削で詠者の気持ちがそのまま伝はってくるやうになると、講義室には「なるほど」と驚きにも似た声が上がり、ユーモアを交へた批評には笑ひが起った。「人に話をするやうに詠めばよいのだ」と語りながら、国文研会員の短歌も紹介された。

 最後に、「言葉遣ひが正確でないと正しく思索できない。表現する力と読み取る力は同じなので、日頃から短歌創作と輪読で、一段上の自分をめざして言葉を鍛へて欲しい」と説かれ、「短歌が身近なものになれば、史上に残る無尽蔵の短歌を通して日本歴史の広やかな世界に分け入ることができる」と述べられた。

慰霊祭

 斎行に先立ち元新潟工科大学教授大岡弘先生(本会理事)から、慰霊祭斎行の趣旨と祭儀の手順が説明された。慰霊祭の趣旨について「遠き古より今日に至るまで、戦時・平時を問はず、『祖国日本』のために尊い命を捧げられた全ての先祖のみ霊をお招き申し上げ、ご馳走をお供へして、おもてなしをすること」であると説かれ、さらに「豊かな日本の文化に浴することのできる幸せを、祖先のみ霊に感謝申し上げ、自らも祖先の方々のみ跡に続いて行かうとの気持ちを新たにして、決意を固める祭りである」と言葉を重ねられた。

 慰霊祭は宿舎から徒歩304分ほどの屋外に設へられた斎庭で厳修された。祓詞に代へて山口秀範常務理事による、三井甲之詠の「ますらをの悲しきいのちつみかさねつみかさねまもる大和島根を」の朗詠に始まり、小野吉宣参与による御製拝誦、岩越豊雄理事による祭詞奏上と続き、次いで参加者一同で「海ゆかば」を奉唱した。心配された雨も直前に上り、心地よき夜風の中で、祭儀は古式を尊びつつ厳かに斎行された。

合宿を顧みて(第四日目)

 合宿は最終日を迎へ、日常生活に戻る前に研修の意味を問ふことになった。今林賢郁副理事長は第1日目からの日程を振り返り「講義の中でさまざまな事柄が語られた。しかし、ただいい話をお聞きして良かったで済まさずに、各自の胸の中に留めて日々の生活で咀嚼して欲しい。要は一人一人の自覚に懸かってゐる。その積み重ねが国を支へる力となる」と語り、次いで飯島隆史合宿運営委員長は「参加者のご協力のお蔭で無事日程を消化できたことに感謝したい。ここでの研修は大学で、或いは職場で生かしてこそ意味がある。今後とも力を尽しませう」と呼び掛けた。

全体感想発表

 挙手をして登壇した参加者は率直に胸の裡を語った。
「初日は不安で一杯だったが楽しく勉強できた。参加して本当に良かった」「心を磨く生き方を貫いたソクラテスのやうに生きたい」「天皇陛下の国民を思はれる御心に触れて、天皇陛下は全国民の心の拠り所だと思った」「短歌の相互批評の時、厳しく指摘してくれた班員に感謝したい」「日常生活での行動、実践こそが学問の核心だと思った」「ふだんの生活に戻ってからの勉強が大事と思った」「日本を思ふ人達がこんなにも大勢ゐることを知って嬉しかった、力を得た」「戻ったら海軍出身の祖父に深く話を聞いてみたい」「日本人の精神性や歴史について素直に友と話せた」「班の友と話し合へたことが心の糧になった」「講義も身に沁みたが、それ以上に班員と徹底的に語り合へたことが貴重だった」「四日間の合宿を短く感じた。もっと日本のことを知りたい」「今の日本があるのは先人の死に物狂ひの戦ひのお陰だと思ふことができた」…。

閉会式

 心ひとつに取組んだ合宿の日々を物語るかのやうに、国歌斉唱は開会式の折に比して何倍も力強いものとなった。主催者を代表して磯貝保博副理事長は「班別研修や講義聴講など合宿日程の中で、皆さんはふだんの何倍も心を遣ったことと思ふ。スポーツの後とはまた違った疲労感を覚えるのは心を労したからだ。もっと日本のことを勉強したいとの力強い、率直な感想発表をありがたくお聞きした。合宿で得た経験は皆さんが生まれ変るための契機である。御家族・友人に感動を是非伝へてほしい」と挨拶した。福岡大学経済学部3年松井豊君が「合宿で多くの友人、言葉に出会ふことができた。合宿で得たものを持ち帰り、考へを深め日本人として成長したい。各地の勉強会に加はり来年の合宿に向って互ひに努力しよう」と思ひを述べた後、神奈川大学法学部2年市川絢也君の閉会宣言を以て第56回全国学生青年合宿教室は幕を閉ぢた。

ページトップ

(かな遣ひママ)

自分の物の考え方を見つめ直せた
          明治大学法3年 岡部訓亮

 班別研修で同世代の人や先輩と自分の考えを素直に話し合うことが出来た。これは日常生活ではなかなか得られない経験であり、自己と他者との比較の中で自分の物の考え方を見つめ直すことが出来た気がした。

自分の無知を思い知らされた
          山口大学理3年 廣田真樹

 理学部に属していますが、古文や日本の歴史について輪読する機会は全くなく、そのことについて討論することもなかったので、今回の合宿はお互いに聞き、話すという良い機会でした。あまり話すことは出来ず、また他の人の知識の豊富さと発想力には驚かされました。同時に自分の無知を思い知らされました。今回を機に日本の歴史や文化について知りたいという気持ちになりました。

相手の話をよく聞くことが大事だ
          中央大学文2年 廣木摩理勢

 2回目の合宿ということもあってか、班別研修が大変充実していました。自分の気持ちをまとめて、それを語るというのはとても楽しいものだと知ることができました。もう一つ大切なことを学びました。それは相手の話を聞くということです。去年は自分が発言するだけで精一杯で話を聞く余裕なんてなかった。今年はその余裕が生れしっかりと相手の話を聞くことが出来ました。相手の話を聞くことによってどのような話をどのように話せばよいかが見えました。

忘れられない合宿となった
          拓殖大学政経2年 平田聖英

 今回の合宿は忘れられないものとなった。理由は二つある。一つは自分自身のステレオタイプを先生のお話や仲間と話し合ううちに壊して今まで見ていなかった一面にきちんと目を向け、それについて考え自分の意見を述べることが出来たこと。もう一つは自分がいかに無知であるかを知り得ることが出来たことである。ソクラテスではないが、人と色々と話す上で、いつもその気持ちを持っていられるように、これから国文研のゼミ等に出るなどして日々精進してゆきたい。またそのような勉学をしっかり続けてゆけるような仲間を大切にしてゆきたい。

祖先のおかげで自分の存在がある
          福岡大学経3年 坂口雅人

 私が一番印象に残ったのは慰霊祭の行事でした。このような儀式に参加するのは初めてで、とても厳かに行われた気の引き締まったお祭でした。はるか昔からの祖先のおかげで、自分が存在しているということを感じることができました。祖先に感謝する心、それが生涯を通して、日本人として大事なことが分りました。

日本の素晴らしい国柄を学んだ
          九州工業大学情報工4年 大森淳史

 山内健生先生の御講義「日本歴史の特性」の中で「人柄」と「国柄」を結ばれたお話にとても感動しました。人と国が繋がり、その繋がりは日本の長い歴史が連綿と続いて来たからこそ素晴らしい国柄となり、切ろうとしたり、壊そうとしても、切れない、壊せない物になっているのではないかと感じました。日本の国柄、他人を思いやる心を育むために、輪読会を続けて行きたいと思います。

人との「繋がり」を大切にしたい
          専修大学法2年 奈良崎恵祐

 御講義に於いて「連続性」、「繋がり」という言葉が出てきましたが、この合宿において、私は人との繋がりを強く感じることが出来ました。去年の阿蘇合宿で知り合った方々と再会し、研修で再び語り合えたこと、一度しか話をしてないにもかかわらず、「奈良崎君、よく来てくれたね」「また会えて嬉しいよ」とお声をかけて下さったこと、この何気ないことに私は感激せずにはいられないのです。「繋がり」を持つということ、これは人生において大切にしなければいけないことだとこの合宿を終えて強く思いました。

天皇について勉強したい
          鳥取大学4年 井上翔太

 この合宿に参加して日本を知ったつもりになっていたことを思いしらされました。特に天皇については、今でもまだ知らないことが多く、今後自分で少し勉強してみようと思いました。また。「日本歴史の特性」の御講義で、日本人は「連綿性」、「躍進性」、「中和性」を歴史的に持っており、これらを繰返しながら日本という国が形作られたというお話を聞き、エンジニアの卵として、これまで日本製品が世界と戦い勝ち残ってきた理由は、日本文化が深く関係していたのだと思いました。

「気持ちを寄せる」行為に意味がある
          東京大学大学院工2年 内海雄太郎

 人の話に耳を傾けること、相手の心情を理解しようと努めること、それらの難しさを、改めて痛感した。日頃の人や物事への接し方がうわべだけのものではなかったかと自問せざるを得なかった。ソクラテスや吉田松陰の、命を超越した生き様。聖徳太子や歴代の天皇の民を思いやる姿、友が短歌に顕した言葉。それらを顕在化させた心を理解するには、時間も、知識も、気力も足りなかった。しかし、この合宿を通じて、理解・共感に至らなくても、「気持ちを寄せる」行為にこそ意味があることを実感できたのは大きな収穫であった。その方法としての短歌も学んだ。良い人たちとの出会いもあった。

言葉は心に迫る力を持つ
          千葉大学教4年 国弘大資

 初参加で特に心に残ったのは、班別研修でした。講義の内容を深めるため、正確な言葉で率直に語り合った経験は非常に有難かった。人の心に入っていくというか、言葉は心に迫る力を持っているがゆえに語り合うことは難しくもあり、有意義でもある時間でした。

「志」はどこかで「公」につながる
          九州大学芸術工1年 森田健太郎

 合宿を通し私の中で「公」に身を捧げることへの認識が変った。以前は盲目的に捧げると考えてをり、「私」を自覚する事が大切であると分った。「私」は利己的で他者を傷つけるものだと合宿で強く感じた。そのような「私」といふ弱い面を見つめ脱却しようとした時にはじめて「公」に身をつくすことができると思ふ。また「公」に身を捧げる真の学問を行ふきっかけとして「志」の大切さを実感した。「志」とは自らが生涯をかける道である。社会で他者と関り生きる人間にとって、「志」はどこかで「公」とつながっている。私は弱き人間である。「志」が「私」に近くなってしまひさうになる。そこで「公」を思ひ出し、正しい「志」を持ちたい。

印象深い慰霊祭に感動
          富山大学人間発達科学4年 藪 あすか

 合宿の中で行われた慰霊祭も印象深い思い出のひとつです。厳粛な雰囲気の中、祭司の無駄のない整然とした動作に感動して、御霊にご降臨いただいて祈りを聞いていただくことの重さを実感しました。お祈りを聞いていただいた自分たちが、まずそれに相応しい行動をとっていかなければならないと感じました。

自分自身が成長出来て良かった
          共立女子大学3年 宮坂礼子

 父に勧められこの合宿に参加しましたが最初は遠い広島の「島」にゆくことにとても緊張しました。合宿では、貴重な講義を聞き、班別研修で自分の気持ちを素直に伝えるということを繰り返すことで、知らなかったり、分らなかったことが、すっきりとしてゆくような気持ちになりました。この合宿に参加し、一歩踏み出すことでこんなにも自分自身を成長させることが出来て本当に良かったと思います。

松陰について詳しく調べたい
          聖心女子大学1年 岸 花帆里

 「学ぶ」ことについての概念が変った合宿だった。特に廣木寧先生の「ソクラテスと吉田松陰」は興味深かった。自分の志のためなら生きるか死ぬかは問題ではないというソクラテスの考え方にとても驚いた。今まで余り詳しいことは知らなかった吉田松陰も同じように自分の生死よりも志を果たすことを第一に考えていたと知り、松陰についてより詳しく調べたくなった。松陰は一心に日本のためを思い学んだ。日本という国が滅びるか否かが己の肩にかかっているという意識があったのではないだろうか。勉強とはテストで点を取ることが目標のものではない。それは自分でも分っていたつもりだが、松陰のような時代を生き抜く力は私には欠けていたと思う。

班員と素直に話が出来た
          立命館アジア太平洋大学2年 名和裕美

 特に述べたいのは、班員をはじめ人との出会いで得た喜びについてです。全くの初対面だった班員たちと、寝食をともにして、夜は語らい、お互いの話を聞くことで理解を深めてゆく過程は、とても楽しいものでした。この場で知り合えたからこそ、大学の友達とは話さないような、自分の日本に対する考えや、価値観を、素直に打ち明けられたように思います。お互いに良い出会いであったと確信しています。

自分の弱さに打ち勝とうと思う
          佐賀大学文化教育4年 吉本朋代

 廣木寧先生のご講義で、死を免れるよりも下劣を免れる方が難しいという内容のお言葉をききました。生きていると様々な場面で、自分に甘くなって、「公」より「私」を優先しそうになったり、自分の弱さに負けてしまうことが多々あります。しかし、そういう時にはこの言葉と、この言葉のように下劣を免れ最期まで堂々と生ききった松陰やソクラテス、公の為に力を尽された聖徳太子のことを思い出して自分の弱さに打ち勝とうと思います。魂の世話をすること、すなわち学問をするということは偉大な先人達の魂との間に絆を感じることだと思いました。自分が連綿と続く歴史の一部であること、日本の誇るべき文化・歴史を受け継いでゆくことを改めて強く感じました。

自分も志を立て完全燃焼したい
          山口大学医3年 福田裕紀

 初めは色々な刺激がもらえたら十分だ位にしか思っていなかったが、講義を聞き、話し合い、意見を述べ合う中で、いつの間にか大学の講義よりも真剣に学び取ろうと努力する自分の姿がそこにあった。講義をされる先生方、一緒に話し合う友、皆志を持ち、輝いて見えた。自分も志を立て、生きている時間を完全燃焼させたいと思った。

本当の日本が何かに気づいた
          福岡中小企業経営者協会 古賀正博

 今回の合宿を通して私が確認できた最大のものは、日本を2千年という時間軸でとらえるということであった。私自身及び私の周りは近代史にとらわれすぎて、本当の日本の良さ、強さ、美しさに到達していなかったようにおもえてならない。このことに気づかせていただいたことは私のじんせいにとって大変大きな出来事であった。

一致団結とか協力を感じた
          日章工業(株) 樋口哲郎

 初参加して一番に感じたことは同じ目的意識を持っていれば、年齢、職業に関係なく、誰かの話に耳を傾け、仲間に問うことが出来る。それが、一致団結とか協力というものなのだと改めて感じることが出来ました。各自が個々では違うんだと感じることが出来、有意義な体験をさせて頂きました。

信念を持って行動をしたい
          (株)はせがわ 岩田敏幸

 一番感じたことは、今までは何事も他人まかせにしてきたという事です。自分自身の心を見つめ直し、自分の信念は何かを見つめ直し、その信念を持って行動をすることが大切であると学びました。自分自身を見つめ直すには、日本人である事に誇りを持ち、今回の研修で学ばせて頂いた日本古来から伝わる伝統や考え方に従った行動をするように心掛けたい。

同じ気持ちの人は沢山いるのだ
          東京工業大学大学院1年 安藤和則

 私は今、大学院修士課程で生物の再生について研究をしていますが、日頃会う人と日本についての事柄は殆ど話題に上ることはありません。けれども、自分の生れた国について知り、考え方を共有することは非常に大切なことであり、精神的な軸をしっかりさせるのに必要なことだと思います。それはきっと自分の研究と向い合い外国の科学者たちとの競争に勝つ上でもなくてはならないものです。どうにかしなければならないのに出来ずにいる気持ちは今回の合宿で大変明るいものになりました。自分の直ぐ近くにいなくとも、日本中に同じ気持ちの人は沢山いるのだということに気づいたからです。

ページトップ  

   カッターを漕ぐ   東京大学理3年 高木 悠
皆の漕ぐ櫂の時をり平行にそろひて動くは美しかりけり
次もまた櫂よそろへと念じつつ皆のブレード見つめ漕ぎゆく
ブレードの動きいよいよそろひ来てひと漕ぎひと漕ぎリズム出で来ぬ

     福岡大学経3年 松井 豊
ソーレイの掛け声しだいに高まりて今我が艇はスピードを増す

     拓殖大学商1年 千葉 敦
「太陽だ、太陽を見ろ」の声を聞き全身のけぞり漕げば楽しも

     山口東京理科大学工2年 清藤邦彦
漕ぎ終へて体は痛く疲れしも力出し切り心みちたり

     國学院大学文4年 相澤 守
櫂を持ち漕ぎ出でてみるも皆の息未だ合ずに艇は進まず
迷惑をかけてはならじと全身で皆に合せて櫂を漕ぎけり

     北海道大学大学院情報科学2年 飯島仁史
櫂を引き身を反る姿誉められつつ漕ぎゆく体に力入るも
アメリカンスクール・イン・ジャパン高校 スクィラチォティ茉莉菜
海の上今進みゆくカッターに我らの心は一つになりゆく

   合宿の日々   (株)まるぶん 嵐 隆将
去年会ひし学びの友と再会し変らぬ笑顔を嬉しく思ふ

     無職 古田達朗
若者に交じりて学び語らへば若き日の我に戻る心地す

     神奈川大学法2年 市川絢也
日本への熱き思ひを語りますご講義を聴き心昂ぶる
壇上の国旗を見つむる我が想ひ三日前とは異なりにけり

     九州工業大学大学院情報工1年 小林達郎
魂を洗ふがごとき素晴らしき合宿の日々我れ忘れめや

     (株)致知出版社 藤尾允泰
国のため命捧げし英霊を偲びまつりて君が代唱ふ

     文京学院大学外国語3年 神谷靜香
江田島で新しき友と夜更けまで語らひ合ひて心満ちたり

ページトップ  

編集後記

 江田島ではかつても今も海の防人達が心身を鍛へてゐる。その教育参考館を参観したが、入って直ぐの展示室に「…帝国海軍以来の伝統精神を味得させ以て隊員の精神基盤の育成に資する」との「理念」が掲げられてゐた。頭が下がった。

 本号編集の最中に野田新内閣が発足した。2年前の「政権交代」選挙の狂熱が蘇った。露大統領の国後訪問を初め「尖閣」「竹島」と、民主党政権で失墜した国威を取り戻すだけでも容易ではない。首相は就任会見で「国際政治等々を総合判断し、首相、閣僚は(靖国神社に)参拝しない」旨を語った。戦歿者追悼は他国の干渉を許さない独立国の聖域であり国威の源泉である。「A級戦犯」は国際法とも無縁の押し付けの政治概念でしかない。要するに「自国のこと」を他人事のやうに語ってゐるのだ。言ふまでもなく合宿での学びはその対極にある。(山内)

ページトップ