国民同胞巻頭言

第575号

執筆者 題名
合宿運営委員長 池松伸典 耳を傾け、考へ語り学び合った3泊4日
-第54回全国学生青年合宿教室開催さる-
合宿教室のあらまし
走り書きの合宿感想文から(抄)
合宿詠草抄

 内政外交にさまざまな難題を抱へる政治状況にあって目前の衆院選の行方が注目される中、第54回全国学生青年合宿教室が神奈川県厚木市七沢で開催された(8月20日〜23日、於・厚木市立自然ふれあいセンター)。全国各地から集った160名の参加者は、講義に班別研修に、短歌創作に、そして短歌の相互批評にと、過密な日程の中で真摯に耳を傾け、考へ語り学び合った。

 開会式に続く合宿導入講義では「一人一人が国を支へる柱にならう」(今林賢郁講師)との大きなテーマが提示された。これは昭和31年夏の第1回以来、小田村寅二郎先生を中心に本会に連なる師友が一貫して願ひ訴へてきたものでもあった。日本を取り巻く環境は経済的にも安全保障の面からも近年ことに厳しさを増してゐるが、それにもまして日本人としての意識が稀薄化しつつある。果してこれでいいのか。日本に生れた幸せと喜びを感じとることが大切であると説かれた。

また「源氏物語 もののあはれを知る」との講義(國武忠彦講師)では、漢学偏重の江戸期にあって日本人の心情の有り様を源氏物語に究めんとした本居宣長の言葉を辿るうちに、理屈では到底つかみきれない「動いて止まざる心」を身に沁みて感じることができ、聴く者は日本文化の深層に思ひ及んだのであった。

 合宿教室招聘5回目となる長谷川三千子先生は、日本古来の政治道徳と民主主義の思想的な「近さ」と「相違」について述べられ、近いが故に現代日本人が惑はされがちな「本当は怖い民主主義」の思想的原理をフランス革命の実相に触れながら説かれた。そして五箇条の御誓文にある「上下心ヲ一ニシテ」にこそ「我が国古来の民主主義」があると述べられ、「古来の法」の意味を見極めることの大切さを指摘された。
(合宿から一週間後の8月30日投票の衆院選では、原理主義的な民主主義に傾く民主党の圧勝といふ結果となり、まさに先生が仰ったやうに人権擁護法案を初めとして「これから四年間民主主義について考へざるを得なくなる」といふ状況となった)。

  学生時代にこの合宿教室に参加の御体験を持つ招聘講師のペマ・ギャルポ先生は、冒頭でチベット難民の生活四十年を経て御礼の意味もあって日本に帰化したと述べられ、1930年代のチベットと日本との関係を振り返って、英国はチベットへの日本の影響力を排除するために「チベットの宗主権は中国にある」と言ひ出した、当時の日本は外国から一目も二目もおかれる闊達な活動を展開してゐたと回顧された。「今の日本はもっと自信と誇りを持ってアジアにおける日本の役割を考へる必要がある」、お陰さまの日本人本来の気持ちを大事にしつつ果すべき役割は一杯あると説かれた。

  「体験と思想-千秋の人吉田松陰に学ぶ」と題する講義(占部賢志講師)では、「兵学者」松陰が国史に学び国柄の認識を次第に深め、やがて尊皇の大義に目覚めていく過程が松陰自身の文章に即して語られ、松陰の国史開眼の喜びと「天朝への深憂」の息遣ひとが迫ってくるやうだった。今日ややもすれば歴史上の人物に英雄偉人のレッテルを貼ってこと足れりとなりがちだが、先人の言葉に「思想展開の生きた道筋」を辿り追体験することこそが後世の者の務めであると説かれたのであった。

 かうした諸講義やその後の班別研修を通して、参加者は学問・人生・祖国の一体的把握に意を注いだ。その様子は本号6〜8頁に抄出させて貰った「感想文」と「短歌」が雄弁に物語ってゐる。

 さらに右に特記した講義の他にも、登壇した会員講師は、合宿教室での学びは日常と相即してこそ生きてくる旨をこもごも語った。

参加者各位には、厚木市七沢の地で学んだ日々をバネに、日常の学業に生業に一層励まれるであらうことを確信してゐる。御健闘をお祈りしたい。

(若築建設(株)九州支店 数へ54歳)

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開会式 - 第1日目 -

 國學院大学文学部2年相澤守君の力強い開会宣言の後、主催者を代表して上村和男理事長は「若い時に自分はどう生きるのかといふ志を立てることが大切である。先生方の御講義を正確に聴き、班別研修では自分の思ひを率直に述べ合って、日本はどうあるべきかを共に考へて頂きたい」と挨拶した。続いて参加学生を代表して九州工業大学四年谷口耕平君は「毎年合宿に参加して、そのたびにこれから1年頑張るぞといふエネルギーを得てゐる。それは同世代の人達と真剣に考へ、慰霊祭で日本を良くしていかうと誓ひを新たにするからだと思ふ。皆で素晴らしい合宿にしていきませう」と呼び掛けた。

合宿導入講義
「一人一人が国を支へる柱とならう」   本会副理事長  今林賢郁先生

 初めに、二千年の歴史の最先端に生きる日本人として祖先に対しても子孫に対しても恥かしくない生き方をしよう、その学びの場として提供されたのがこの合宿教室ですと提起され、福沢諭吉の「独立の気力なき者は国を思ふこと深切ならず」の語を引かれて、一身の独立自立があればこそ「国の独立如何に係る所の事」に「心身共に鋭敏ならむこと」になると説かれた。そして大東亜戦争の歴史を知ることがわが国の真の自立回復に不可欠であると指摘され、宝辺正久先生(本会副会長)の「亡き友を思ふ」や国文研叢書『続いのちささげて-戦中学徒・遺詠遺文抄-』所載の遺文遺歌に拠りながら、特攻出撃で戦死された松吉正資さんと心の友・高瀬伸一さんとの友情の世界を仰がれた。
「松吉さんの思ひは、ふるさとへのなつかしみ、友の恩、大君に対する気持ちが連続してゐるものであった。心の友と濃まやかな友情を分つことのできた人を犠牲者などと言へるでせうか。心からお国のことを考へ、家族のことを思ひ、自分にできることは何かに思ひを定めて殉じたのです。かうして遺文遺歌を読めば、今の皆さんの心にも伝はるものがある筈です。それは所謂『8月15日』で歴史が切れたのではなく連続してゐる証です。歴史の真実を身に沁みて知ることは自分自身を取戻す第一歩であり、国を支へることに繋がるのです」と説かれた。


講義
「源氏物語 もののあはれを知る」   昭和音楽大学名誉教授  國武忠彦先生

 冒頭、藤原正彦先生、岡潔先生お二人の数学者の「国語は全ての教科の基礎である」「数学の基礎は情緒である」との言葉に触れられ、豊かな感情を養ふ「もののあはれ」について一緒に考へていきたいと述べられた。ついで人の心・人情と題して本居宣長の言葉を引かれ、「古事記、万葉集の世界における本当の人の心とは善か悪かで割り切れるものではなく、分析的、知的に考察されるものではない」、「心の中に目を移し入れるやうに、外から眺めるだけでなく、内から見るやうに努めることで感じられ見えるものがある」、さらに「今学問において大事なことは、自分を捨てて共感すること、相手に飛び込むといふことなんです。源氏物語のもののあはれを知ることの意味はそこにある」と述べられた。
「儒教、仏教全盛の江戸時代に、人間の根本は未練で愚かな実の情であると宣長が宣言したことはすごいことだった」と説かれ、「その日本文学史上の功績は明治以降の西洋化と戦後のアメリカ一辺倒の時代にあってますます意義が深まってゐる」と指摘された。そして『源氏物語』柏木の巻を取り上げ、奥深く細やかな日本人の心の世界をお示しになり、「日本人が国語、古典を大事にしてきたことを、もののあはれとは何かといふことと共に考へて行って貰ひたい」と述べられた。

講義 - 第二日目 -
「国体と民主主義」  埼玉大学教授 長谷川三千子先生

 最初に、その価値を問ふまでもないほど「自明」となってゐる「民主主義」について、「人民の、人民による、人民のための政治」によって代表される「一見真当で穏やかな顔」の皮を一枚剥ぐと、本当は怖い「民主主義」の原理が控へてゐることを知っておくことが大切ですと問題を提起された。

 フランス革命の思想的背景と実際の推移を検証され、デモクラシーの語源である「民衆の力」が持つ危険な側面に触れられた。ジャン・ボダンが称への拘束をうけない権力」としての「主権」が、ひとたび君主から国民に奪はれると「国民の意思こそ法そのものである」といふシェイエスの言葉が「国民主権」に歯止めなき「不和と敵対のイデオロギー」を吹き込むこととなり、革命は六十万のフランス人同士が殺し合ふ大惨事を齎すことになったと回想された。イギリスの場合は「古来の法」〈慣習法〉が王権の行き過ぎにバランスを与へ、革命による迷走はやがて本来の「レヴォリューション」(ころがって再び立ち帰る)として安定へと向かはせたと指摘された。

 わが国では明治維新の折に発せられた「万機公論」「上下心ヲ一ニシテ」などを明示した「五箇条の御誓文」に見られるやうに、民主主義は外来のものではなく「この民主主義の精神的伝統は神話にも見え、上に立つ天皇が国民を『おほみたから』(大きな寶)と呼んだところに、日本の国体の中心思想があった。ところが戦後、西洋流の民主主義があたかも絶対の価値を持つかの如くわが国を覆ってゐる」と憂慮を示された。

 最後に古代アテナイの重大犯罪「売国罪」について紹介され「アテナイの民主政がその刃を内側に向けても、他方で売国は明白な罪であるといふ制御が効いてゐた。その民主政は常にアテナイに対する忠誠と表裏一体であった」と述べられたが、参加者一同は「国の安全保障」が何ら問はれることなく政権交代の声のみが一人歩きしてゐるわが国の政治に対する深い警鐘と受け止めた。


短歌創作導入講義
東洋紡績(株) 庭本秀一郎先生

 初めに、昨年の合宿教室で実際に短歌を創作した参加者の感想文を紹介されながら、短歌を詠むに当っては@素直に表現することA何をどの様に感じたのかを具体的に詠むことB自らの心の動き(感動)を詠むことCそして正確な表現で詠むこと、の4点が肝要であると語られた。また短歌を詠むことによって感動を追体験し自らのものにすることができ、短歌を詠み交はすことにより、身近な人はもちろん歴史上の人物とも心を通はすことができると語られた。続いて「一首一文」「文語による正仮名遣ひ」「連作」などを具体例を示しながら懇切に教示された。また小学校五年の児童が母の日のために作った短歌や、ご自身が詠まれた短歌をも紹介されながら、自らの感動を率直に具体的かつ正確に短歌に詠むことの難しさとともに、短歌の世界の広がりについても述べられた。


短歌創作・大山阿夫利神社参拝

 このあと参加者は短歌の創作を兼ねた野外研修で、大山へと向った。古くからの信仰の山で麓には土産物屋が軒を連ねてゐる。ある班は徒歩で、ある班はケーブルカーを使って阿夫利神社下社を参拝した。


講義
「アジアにおける日本の役割」 桐蔭横浜大学大学院教授  ペマ・ギャルポ先生

  最初に日本人はアジアを正しく認識しなければならないと次のやうに述べられた。「アジアの一員でありながら、アジア域内に存する様々な連合体の正式メンバーとなってゐない。もっと存在感・発言力を高め、アジアの他の国々から一致して応援されるやうでなくてはならない。G8では日本だけが難題を押し付けられ経済的な手枷・足枷を掛け続けられて、さらにAPECは円経済圏設立を阻止する為の役割を果した。国際社会はまことに厳しい」。そして8月6日(広島)・9日(長崎)を迎へるたびに発する、まるで日本が加害者であるかのやうなコメントにアジア諸国民は戸惑ひを感じてゐると指摘された。「第二次大戦前、アジアにおける真の独立国は日本だけであって 当時の日本人は対チベットを含め今以上に地球的規模で物を見てゐた」と振り返りつつ、アジア諸国の経済発展は日本の協力・援助なくしてはあり得なかったし、日本はアジア諸国の憧れとお手本であった。経済力だけでなく、日本人の公共心、仕事に対する態度、思ひやり、お蔭さまといふ姿勢が、「ルックイースト」「日本に学べ」の声となったと述べられた。

  そして「日本人は世界のどの民族に対しても誇れることをしてきた。祖国に対する自信と誇りを取り戻して欲しい。アジアの国々は日本に期待をしてゐるが、日本が自らの方向性を示さない中で、どうして日本にリーダーとしての役割を求める事が出来るだらうか。日本人がよく口にする『お陰さま』の精神は21世紀をリードできる精神文化である」と説かれた。さらに、対日感情が極めて良いインドとの関係を一層深めることが今大事なことであり、米国以外の核保有国とも繋がりを深めることは反日核保有国を牽制することに繋がると述べられた


講義 - 第三日目 -
「体験と思想-千秋の人 吉田松陰に学ぶ-」  福岡県立太宰府高校教諭 占部賢志先生

  冒頭、「吉田松陰は明治の指導者を育てた立派な教育者とよく言はれるが、さう規定した瞬間、レッテルを貼った瞬間、その人は松陰の内面を知らうとしなくなる」と述べられ、兵学者・松陰が国史の真姿(国柄の把握)へと開眼して行く過程を松陰自身の言葉で辿って行かれた。
江戸に遊学した若き日の松陰は他藩の人から「御藩の人は日本の事に暗し」と面罵され、「我輩国命を辱むる段汗背に堪へず候」と兄に手紙を送った。「これは大変な屈辱だった。しかし、松陰はこの屈辱の体験から逃げずに立ち向ひ、国史の勉強に悪戦苦闘をして行った」と述べられ、さらに松陰の直向きな研鑽の様子を述べられた。

 その2年後松陰はプチャーチンの率ゐるロシア軍艦に乗らうとし、長崎へ急行する。その途中、初めて京都を訪れ、梁川星巌から、孝明天皇が国の行く末を案じて日々早朝沐浴斎戒されてゐることを聞いて深く心を動かされ、翌朝御所を訪れて「鳳闕を拝す」といふ詩を詠んでゐる。「これは松陰の痛切な体験がそのまま文字になったもので、『野人悲泣して行くこと能はず』と詠んだ一人の日本人松陰の切実な体験なくして日本の歴史、維新を知ることはできない」と松陰の転機を語られた。そして最後に「松陰は自らの試行錯誤の体験を、自分の目指す所に向けて行ったのです。是非皆さんもこの後の班別研修で松陰の言葉を味はふといふ体験をして頂きたい」と述べられた。


創作短歌全体批評  熊本市東部環境工場長 折田豊生先生

 最初に、短歌は心と心を結びつけるものだが、正しくものを見るためには正しい言葉を使はないといけないし、美しく正しい言葉は正しい思想、美しい生き方に繋がると述べられ、短歌創作は言葉の習練でもあると説かれた。相互批評はその大切な一歩であって、不正確や大袈裟な表現は厳しく指摘し合はないとなかなか直らないと、大学時代の歌会での経験談から相互批評の大切さを語られて、参加者の歌の批評に入って行かれた。うまく表現出来てゐない詠者のもどかしさを適確に衝かれた添削に笑ひが起り、会場は和やかな雰囲気に包まれた。最後に『万葉集』から山上憶良の「皇神の厳しき国、言霊の幸はふ国」といふ言葉を紹介されて、日本人は古くから言葉に特別な思ひを抱き、国全体に歌を詠む土壌があった、上は天皇から下は名も無き民に致るまで歌を詠み合ってきた。歌を詠むことは歴史に連なる喜びを実感することでもあると述べられた。


青年体験発表  (株)寺子屋モデル 横畑雄基氏

 現下の学校教育の欠陥を少しでも補ふべく各地の幼稚園や企業、神社などで展開してきた偉人伝講座が、昨年秋は初めて海外(ドイツの日本人学校)で実施されたといふ。その実現に至るまでの苦しかったプロセスと子供達に感動が伝はった時の喜びとを語った。そして将来は家庭や学校であふれるやうな思ひで先人の生き方が語られ折々に偉人の言葉が行き交ふやうな、そんな国にして行きたいと抱負を語った。


(株)伊佐ホームズ 小柳雄平氏

 志貴皇子の短歌「石ばしる垂水の上のさわらびのもえ出づる春になりにけるかも」を朗詠して、建築設計もこの歌のやうに美しく流れ出るものにしたいと語った。ついで仕事をする上で力となった正岡子規等の言葉を紹介し、最後に自分を支へてくれた明治天皇の御製「いかならむことある時もうつせみの人の心よゆたかならなむ」と倭建命の「はしけやし吾家の方よ雲居起ち来も」の二首を朗詠して、日本の歴史に生かされてゐることへの感謝の思ひを語った。


慰霊祭

 祭儀に先立ち大岡弘理事から慰霊祭斎行の趣旨が述べられ手順が説明された。ついで参加者は斎庭へと移動。祭儀では祓詞に代へて三井甲之の「ますらをの悲しきいのちつみかさねつみかさねまもる大和島根を」が山口秀範常務理事によって朗詠され、奥冨修一理事の御製拝誦、磯貝保博副理事長の祭詞奏上と続いた。星空の下、祭儀は厳かに修められた。


講話 - 第四日目 -
「学問と友情」  元県立富山工業高等学校教諭 岸本弘先生

  初めに、「天照大御神の道にして、天 皇の天下をしろしめす道…」との本居宣長『うひ山ふみ』の一節をお読みになり「自分が今まで学んできたことはここで宣長がはっきりと言ひ切ってゐた」と感嘆された。『古事記』には古き時代の明き直き日本人の心が記されてをり、我々はいつでもそこに立ち返ることができると話された。そして、この日本の国こそ自分にとって掛け替へのないものであるとの実感がなければどんな議論も意味をなさない、心の裡に日本が息づくならば何を恐れることがあらうかと力強く述べられた。また教員時代に「母」といふ題で生徒たちが詠んだ短歌を紹介されたが、それはまるで一人の連作のやうであった。そのことを『聖徳太子の信仰思想と日本文化創業』の中の一節を引いて「個人的特異性を留め」ないほどに「没我的」であると評された。そして、勝鬘経義疏「我が子の稱は自他を別たず…」の個所に触れられ、「親の子供に接する気持ちは善であり、私たちが大切にしなければならないことを、穢れない子供はふっと見せてくれる。大切なのは親が子供と接するやうに、教員は生徒と、会社では同僚・部下と接することである」と話された。


合宿運営委員長挨拶

 池松伸典合宿運営委員長は「この4日間を振り返ると様々な場面が蘇り、また先生方からお聞きした多くのお話が頭の中を駆け巡ってゐるが、一人の日本人として生きてゐるといふ充実感を覚えてゐる」と述べ、かつて加納祐五先生(元本会監事)が話された「この合宿で実現できた事は、お互ひに心を開いて相手の心を本当に偲び合はうと懸命の努力をした事、そしてお互ひに語り合つた友の真心については少しも疑ふ事がなかつたといふ事。さういふ切実な気持ちを持つて生きていく中で、国のいのち、日本のいのちといふものも自ら見えてくる」とのお言葉を紹介した。そして「再び現実の生活に戻れば合宿で体験した感動も薄れがちになる。むしろそこからが大事で、合宿での体験を思ひ起してここで出会った仲間と様々な交流を深めて行って欲しい」と語った。


全体感想自由発表

 次々と登壇した参加者は合宿の日々を振り返って、その感想を率直に語つた。

「日本の国の素晴らしさと、その日本を守る為に戦った人々の思ひに触れることができた」、「若い人々の学ぶ姿に安心した、世界に誇れる日本の為に皆さんに期待したい」、「松陰の言葉に直に触れて、彼の苦悩と体験が偉大な人格を作ったと実感した」「歴史を学ぶとはレッテルを貼る事ではなく、直に言葉に触れて人物と交はることだと感じた」、「慰霊祭の厳粛な雰囲気に今までになく緊張し、言ひ様のない感動を覚えた」、「孝明天皇のお心を偲ばれる松陰先生のお姿に感動した」、「短歌相互批評を通じて、思ひを正確に表現する事の難しさと同時に言葉と心を一致させることの大切さを学んだ」、「様々なご講義や班別研修の中で、日本をいろいろな観点から捉へることができた」、「参加者の志と意識の高さに驚き、さういふ友を得たことを嬉しく思ふ」、「日本人本来の素晴らしい精神文化、伝統を取り戻さねばといふ思ひを強くし、今こそもっと深い勉強が必要だと感じた」…。


閉会式

 主催者を代表して澤部壽孫副理事長は「皆さんが体験した『心を働かせる』といふことが互ひの信頼関係を築き、伝統文化を継承することに深く繋がってゐる。この心を働かせるといふことに意を留め、合宿で出会った友と共に勉強して行って欲しい。ここで学んだことを日常の生活の中で是非生かして行って欲しい」と挨拶した。続いて参加学生を代表して福岡大学2年の岡松祐樹君が「日本人としての自覚を持つことや良き友を作ることの大切さを学んだ。各地で同じ思ひを持った仲間がゐることを思ひ出しながら勉強を続けて行きたい」と今後の抱負を語り、来年の合宿への参加を呼び掛けた。そして、埼玉大学1年の山中利郎君の閉会宣言を以て第54回全国学生青年合宿教室の全日程を終了した。

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   自分の頭でしっかり考えたい
               
福岡大学経済2年  岡松侑希

 一番印象に残っているのは今林賢郁先生の「一人一人が国を支へる柱にならう」という導入講義での、「日本人である自分を自分の言葉で言えるようになる」という言葉です。自分が日本人であることを意識し、自分の頭でしっかり物事を考える大切さを感じました。私も日本人である自分を言えるようになり、日本人としての役割をはたせるようになりたいと思います。


   言葉の持続は感情の持続だと思った
                國學院大学神道文化2年  上野竜太朗

 今回気付いた事は、和歌はやはり日本語でしか表現できないものであって、普段なんとなく使っている日本語、言葉を大切にしなければならないと思いました。ペマ・ギャルポ先生の「今の日本では言葉が引き継がれていない。それはすなわち感情が引きつがれていないということです」というお話を聞いて自分が思っている以上に言葉は大切なのではないかという気がしました。歴史上の人物の言葉とは、当時を生きたその人物の感情そのものではないかと思いました。まさに言葉の持続は感情の持続であり、その国の感性を後世まで伝えることになると思いました。


    人間の本質はやはり精神にある
                東京大学法3年  大石広行

 最も感じ入ったのは「もののあはれ」についての御講義でした。「もののあはれ」について学んで何の実践的な意味があろうかと思っていたのですが、講義を聴き自ら考えて行くうちに考えは変わりました。大学では剣道部に所属していますが、剣道を通じても人間の本質はやはり精神にあると感じています。心があって肉体がある。肉体のみをいくら鍛えようとしても駄目で、その肉体を動かす心を鍛えなければ意味がない。その意味で、世におけるできごとを「心にあぢはへて、わが心にわきまへしる」即ち、推しはかり、想像し、共感して心に深く理解する、という「もののあはれ」を感じることのできる心というものは、自らを豊かにし、以て社会の役に立つためには、非常に大切であると感じました。


    印象に残った二つの講義
               中村学園大学流通科学2年  園田真也

 初参加のこの合宿で一番学んだことは協調性の大切さである。講義で印象に残ったのは、ペマ・ギャルポ先生と占部賢志先生のご講義である。ペマ先生がおっしゃったように自分自身誇れるものを発見して自分に自信を持つことが大事であると感じた。占部先生からは、歴史上の人物の名前と年表だけではなく、その人の言葉についてもっと追求し、考え方を把握することが大事であることを学んだ。


    生き方の指針を与えられた
               東京大学法 3 年  室園隆大

 今回の合宿の講義で印象に残ったのは、初日の今林賢郁先生の御講義だった。「日本はオレだ、と自分の言葉で言えるようになる」ことが、真の「独立」であるというお言葉には改めて自分自身を振り返らざるを得なかった。また福沢諭吉の「身心共に鋭敏ならん」の文章について、普段は各々の専門分野ないし職務に励みつつ、「国の独立に係る事」については鋭敏な危機感を持つようにすればよい、と教えられ、あるべき生き方としての指針を与えられた。


    日本人としての立脚点得たやうに思ふ
                埼玉大学教養1年  山中利郎

 この合宿で友達と真情をぶっつけ合ふことで、やうやく自分が日本にいるといふことが実感できたやうな気がした。立脚点を得たやうに思はれた。日本人であることの喜びを日本語を通して実感することができた。この思ひを自らの言葉で伝へるために、言葉をより大切に、正確に用ゐることを心がけたい。先人達の生き様を美しい日本語を通して友達と共感できた瞬間を忘れることがないやうにしたい。


    日本のことをもっと知るべきだ
               福岡大学経済2年  深見俊樹

 特に印象に残っているのはペマ・ギャルポ先生の「アジアにおける日本の役割」です。今の日本があるのは僕達が生まれる前の方々の「おかげさま」なんだと改めて感謝するべきだと思いました。また、今までは「男はおとこらしく」、「女は女らしく」という言葉を差別的にみていましたが、ギャルポ先生が「らしくははならではの意であり、差別ではなく、伝統である」とおっしゃったことにとても感動し、この伝統が無くなったら今まで築いてきた日本が一瞬にしてなくなると思いました。まずは、一人一人が日本に誇りを持ち日本という国をもっと知るべきであると思いました。


   日本人は素晴らしい精神を持っている
               学習院大学 3 年  藤尾允泰

 この合宿教室をとおして一番心に響いた言葉は「日本人はもっと自信を持つべきで、それが一番大事である」というペマ・ギャルポ先生のお言葉です。本当にその通りだと思います。やはり昔の日本人は素晴らしい精神を持っていて、それは例えば源氏物語の中に見るもののあはれの精神や明治天皇の五箇条の御誓文の中に見る上下心を一にしての精神にあらわれていると思います。


    本当に楽しそうに講義されていた
               國學院大学文4年  坂本匡史

 国武忠彦先生は源氏物語を本当に楽しそうに、うれしそうに講義されておられた。千年前の人々の細やかな心情にも驚いたが、それをみずみずしく蘇らせる先生の心ばえに感動した。本居宣長もこのようにして先人の物語、心情をよみがえらせてきたのだろう。このような人がいなければ「日本とは何か」との問いに答えるに価するような文化は残らなかった。私たちが当然のように触れる歴史上の人物、古典が奇跡的に伝わってきているのだと感じた。


   どれも新鮮で貴重な体験でした
               福岡大学経済 1 年  松井

 合宿での活動はどれも新鮮で大山散策にしても、慰霊祭にしても、とても貴重な体験でした。大山散策の短歌作りでは、心の動く瞬間を自身で探さなければならず、今までとは違う時間を過しました。合宿が終わっても心の動きを考えながら生活することで、自分の事をより理解できるようになると思います。慰霊祭では今までにない不思議な感情になりました。この不思議をこれから考えたいと思います。


   自分の全てをそそぎ込めた
               日本大学法 1 年  小柳辰介

 初めて来た合宿は非常に新鮮且つハードであり、そして短かったというのが率直な感想である。毎日先生方の御講義を聞き、班の皆でその内容を吟味し、お互いの意見をぶっつけ合う。とても頭が疲れた。3日目は慰霊祭があり、英霊の御霊を前に僕はただただ立ち尽くすのみであった。とても精神が疲れた。自分の今持っている全てをこの合宿にそそぎ込めたと思う。だからこそ疲労しきっている今も清々しい気分である。


    心に残った福沢諭吉の言葉
               筑紫女学園大学文三年  井崎恵美

  心に残ったことは福沢諭吉の「一身独立して、一国独立すること」という言葉です。そのなかで、「独立とは自分にて自分の身を支配し他に依りすがる心なきを云ふ…」とあり、今林賢郁先生は自分の言動に責任をもつことだとおっしゃっていました。自らを省みてみると本当に言行一致できていないと痛切に感じます。心にもない言葉を安易に出したり、自分に嘘をついたときには苦しいと感じます。国武忠彦先生のご講義で光源氏が、横恋慕した柏木が病気になったときには心配して見舞ったり、柏木の両親に対して心を寄せて悲しむ姿は本当に立場や地位を越えて人の思いに自分の心を重ねていく温かさや共感の世界を感じました。この心を持って自分の身は自分で修め、さらに役割を任じて背負うところに独立があり得るんだと思われました。


   とても有意義な夏休みになった
               亜細亜大学国際関係 2 年 三輪夏美

 大学の先生に勧められるままに来た合宿ですが、3泊4日、班の仲間達、班付き宝辺矢太郎先生、講義をして下さった先生方、スタッフの皆さんのおかげでとても有意義な夏休みを過せたと思います。「もののあわれ」とは何かを知り、聞いたこともない童謡を歌い、私の中で歴史上の偉人でしかなかった吉田松陰先生をとても身近な人として感じることができ、聖徳太子、歴代天皇、今上陛下のお言葉を教えて頂き感動しました。また初めて出会った人達とたわいもない話ができるまで仲良くなるなんて初めての体験でした。


   古事記と源氏物語はつながっていた
               九州女子大学人間科学 3 年  西山詩織

 一番心に残ったご講義は国武忠彦先生の「もののあはれを知る」です。それまで『源氏物語』をラブストーリぐらいにしか認識していなかったが、まことのこころをつまびらかに表す日本人の精神が述べられていたのだという驚きがありました。丁度『古事記』を学んでいたこともあり、それまで全くつながりが感じられなかった『源氏物語』と『古事記』がこのような精神でつながっていたのだと感動しました。


   学校では習わなかったことを学んだ
               (株)ビッグ・エー  梶原岳海

 私が今回の研修で最も印象に残ったのは占部賢志先生の「体験と思想」の講義でした。先生が講義の初めに、「偉人を見るとき、偉大な人だというレッテルをはったり、欠点を並べて引きずりおろす二つの見方をしがちであるが、偉人の心を見ないと大事な部分は見えて来ない」と話されるのを聞き、自分が学校などで習ってきた勉強の仕方では見えて来ないものがあることを痛感しました。


   さまざまな繋がりを感じた
               (株)致知出版社  永廣理人

 合宿で私は、「繋がり」を感じさせて頂きました。自分の親や祖父母程の年代の方との繋がり、先人との繋がり、など普段はあまり出会うことのないさまざまの繋がりを感じさせて頂きました。特に慰霊祭は初めての経験でしたが、戦争で亡くなられた方との、日本人としては決して忘れてはならない歴史ある繋がりを感じました。


    心を奮ひ立たせる炎と希望を得た
                (株)ビッグ・エー  浦野洋介

 私は最近日本の将来を悲観してゐました。政治や世情を見ると憂ふることばかりで、世間の風俗の乱れや思ひやりのない行為を見るにつけ、「ああ日本は駄目になってしまったんだ、このまま日本といふ国はなくなってしまふのか」と思ってゐました。しかしこの合宿に参加して、学生さんたちのエネルギーあふれる姿や同じ班の人達の高い志に触れるにつれ、自分の一人よがりの考へや中途半端な知識を猛反省させられました。この合宿で私が得たのは知識や思想ではなく心を奮ひ立たせる大きな炎であり、希望でした。


    心に火を付けられ尻を叩かれた感じだ
                (株)はせがわ  石原

  私は会社で採用担当の仕事をさせて頂いており学生の心に火を付け、尻を叩いておりますが、今回の合宿では私自身が心に火を付けられ尻を叩かれたと感じております。また、短歌創作を通じて、素直に自分の心の中の感動を見つめる術を学びました。短歌にすればその感動を心に止め、いつでも振り返る事ができることや、自分の歌を読んで頂いた方にもそれをお伝えできること、素敵なプレゼントを頂いた気持ちで一杯です。


    片寄っていた自分を身に沁みて感じた
                日本埴生(株) 柏木

 印象深かったことが二点あります。一点目は日本人として、今の生活の礎を築いた日本の歴史上の先人達の思いを知らなかったことに気付かされたこと、二点目は歴史上の事実をありのままに見る目の重要さに気付かされたことです。今まで片寄った偏見で歴史のほんの断片的な理解しかしていない自分を身に沁みて感ずる事ができました。

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   國學院大学文 4 年  坂本匡史
先生の御思ひあふるる御言葉に古人の心伝はり来(國武忠彦先生の御講義)

   福岡教育大学大学院2年  平田無爲
大山の御社にのぼりふりむけば厚木の町は遠くかすみぬ

    大阪工業大学大学院 2 年  川口
汗流し下社にのぼりてながめたる緑濃き山に疲れも癒えぬ

   日本歯科大学 4 年  小泉喜代子
息きらし険しき道をのぼりきり宮より見ゆる景色うつくし

   福岡大学経済1年  渡邊はるか
友の呼ぶ声を励みに御社を目指してさらに登りゆきたり

   熊本大学法3年  井上慶一
息切らし山坂を無心に登り来て友らと共にうつし絵をとる

   西南学院大学3年  平島賢次
友達と語りあひつつ踏み行けば険しき道も楽しかりけり

   ヒューマンアカデミー福岡校1年 森田恵見里
七沢に初めて会ひし友の顔に汗したたりて親はしきかな

   日本大学経済4年  奈良崎大祐
古来より受け継がれ来し日の本の美しき心を我も継ぎなむ

   福岡大学経済 1 年  山崎智貴
知らざりきウイグル族の住む地にて核実験のあまたありきと

   九州工業大学四年  谷口耕平
七沢に出会ひし友らは力なき班長我を助けくるるも

   東北大学 1 年  齋藤瑠奈
歌つくりことばをかはしてゆくうちに知らず知らずに心は通ふ

   中村学園大学3年  赤峰大輝
偶然に出会ひし友と七沢の研修を経て生涯の友

   亜細亜大学国際関係 2 年  三輪夏美
合宿に初めて出会ひし友どちと日の本のこと語り合ひけり

   東京大学法 3 年  室園隆大
空広き厚木に集ひ友達と君が代歌へば心に沁みる

   九州女子大学人間科学 4 年  小野香美
みづからの言葉と心を合せつつしきしまの道を歩みゆきなむ

   福岡教育大学 4 年  岩見智世
班員の素直なる思ひを飾らずに述べてくるるは嬉しかりけり

   埼玉大学教養 1 年  山中利郎
すなほなる思ひをかざらず語りたる友らの言葉胸に残りぬ
夜を通し語り合ひたる友どちと今別るるは惜しくもあるかな

   (株)ビッグ・エー  山口裕章
いつの日か生まるる我が子に必ずや教へてゆかむ古き良き日本

   清水希久子
七沢のすみわたりたる大空に日の本の旗美しく映ゆ

   (学)中村学園  佐藤啓介
あまりにも祖国の事を知らざりき会ひ得し友と共に学べば

   NPO法人教育オンブズマン  日下部晃志
数ならぬ身にはあれども我もまた国の柱にならんと思ふ(導入講義を聞きて)


編集後記

  自民党の歴史的な惨敗の報を耳にしつつ合宿特集号の編集を終へようとしてゐる。小選挙区制の下では政権交代の可能性は常に大であるが、大政党間で国防・外交・公教育など「国のあり方」の基本に関する共通認識が前提となる。わが国にはそれがない。農山村の疲弊、シャッター通り化した地方の街並、年金記録洩れ等々、自民党政権は厳しく指弾されるべきだが、代って政権に就く民主党は纏まった安全保障政策さへ打ち出せない。選挙戦では政権交代を連呼。欲求不満や被害者意識を煽り、自尊自律・自立自治・自恃自助とは裏腹の自卑的な他者依存の劣情を刺激した。外交政策の不在ばかりか、党首は「靖国神社参拝を控へる」旨を早々と公言して、国威を蔑ろにしてゐた。先が思ひ遣られる。

  今夏で54回目となった合宿教室は関係者の御厚意により12年振りの厚木開催となった。選挙戦の喧噪から一歩離れた緑濃き環境の中で、参加者は己が人生観人間観を鍛へるべく努めた。本号の各頁から研鑽の様相をお汲み取り下さい。 (山内)

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